いつもはそれ程遅れる事もないのに、その日は7分遅れてバスは到着しました。

バスに乗りこんだ時、実は既に車内には邪気が満ち満ちていたのですが、

それに気付いたのは次の停留所に着いた時でした。

バスが止まる前に、席から立ち上がるピンクのポロシャツのジイさん。

「危ないですから、止まってから移動して下さい」と、運転手。

それを無視して出口に向かってツカツカ歩いて行くピンクジイさん。

バスから降りようとするピンクに向かって、出口付近に座っていた兄さんが、

でかい声で「何度も何度も#$#&@!言わせんじゃねーよ!!」

すると、ピンクが兄さんをジロっと睨みつけ、引き返してツカツカツカっと兄さんの所に行くのかと思いきや、運転席に。

「そんな法律でもあるのかっ?!!」

すると、運転手が「分かりました」

(???)

興奮したピンクは、前方の入口からガサガサっと降りて、車内の兄さんを鬼の形相で睨みつけ乍ら、

早足で去って行きました。

一体何のこっちゃ、私には良く分かりませんでしたが、その直後、

運転手が本部に入れた連絡により、事の次第が徐々に明らかになっていきました。

「只今、マスクをしないで乗って来たお客さんが降りていったんですが…

規定に則って「何か私に出来ることはありませんか?」と訊いたんですけど、「ない」との事で〜

どうのこうのなんちゃねかんちゃね云々カンヌン…」

バス停に止まったままダラダラと本部とやり取りする運転手。

どうやら、ピンクがマスクをせずに乗り込んで来たので、一悶着あった為に出発が遅れ、

乗客がイライラしていた所へ、私が乗車したと言う事の様でした。

ただでさえ遅れてんだから、早く話を切り上げて出発しろよと思った矢先、

今迄ずっと本を読んでいた爺さんが、痺れを切らして「そんなの事後報告で良いだろ!!」

すると運転手が、「あの、今お客さんから早く出せって文句が出たんで、後で連絡しますんで」

「早く出せなんて言ってないだろっ!!」と、再び爺さん。

邪気に満ち満ちたバスは、定刻より十数分遅れで出発。

集合時間に間に合うか?と焦る私。

法律にない事は、やる権利と自由があると言うピンクの理屈にはうんざりです。

一般常識、倫理観、道徳心、社会性なども鑑みて、自分の行動を制御しようとする気がない人が声高に叫ぶ、

あたかも合理的に見える論理の典型です。

仮に、ピンクがそれ等を鑑みた上で行動していたとすれば、少なくとも私の知っているそれとは違います。

人様の家に土足で踏み込んで行って、「靴を脱げと言う法律があるのか?!」

と言って自分を正当化する様な態度と全く同じで、滑稽な要素を含んだ発想です。

「公共機関」なのだから、自分が勝手に使って良いのだとピンクは思っているのでしょう。

お前が勝手に乗って良いなら、他の人も勝手に乗って良い訳で、

法律があろうが無かろうが、皆が気分良く使う為の配慮が求められるのは当然ですが、

そんな事は知ったこっちゃないピンク。

「皆のバス」「公共」の意味など考えた事もないのでしょう。

自分の自由は他人の不自由かも知れないと言う発想が育たないまま爺さんになってしまった哀れなピンク。

そんな客が乗って来た際に「私に出来る事はありますか?」と対応すれば解決出来るはずだと信じている、

溢れすぎた独創性に溺れた都バスと敬語も使えない妙な運転手。

幼稚な社会を垣間見たバスでの出来事でした。